人が笑うと、免疫のコントロール機能をつかさどっている「間脳(かんのう)」に興奮が伝わり、情報伝達物質の善玉ペプチドが大量に分泌します。 それによってNK細胞を活性化され、がん細胞やウイルスなど“病気の原因”を次々と攻撃。 それが、免疫力アップのメカニズムです。




今春からCAの三井は、希望通り国際線での乗務となった。


シャルルドゴール空港から東京国際空港へ到着したのはほぼ予定通りの9時半過ぎ。
なんやかんや用事をすませ、寮へ戻ったのは17時前。
機長…恋人の仙道はまだ戻っていなかった。
(まだジムか。…健康で何より。オレは…生活のリズムがやっと掴めるようになったかなぁ)
三井は厨房で業務用のバカでかい冷凍庫を開き、出発前に作り置きしたスープストックを入れたタッパーを取り出した。
(CAになってから激動の五年…いや六年目突入ってトコか)
フと左手の薬指の指輪に目が留まる。
銀色がくすんで見えた。
純度が高いせいでもあるが。
(もらった日からずっと付けてた…あとで磨こう)
三井は外してシンクの蛇口の横に置いた。




忘れもしない。
国際線乗務、当日に朝。
仙道は、
「ごめんね。忙しい時に。時間は取らせないから聞いて」
と言いながら三井の部屋へ入って来るなり恭しく跪くと、両手に持った小さなベルベットの箱を開いて見せた。
箱の中で銀色の指輪が輝いていた。
「愛する三井寿さん!勤務中だけでイイからつけてお願い。コレを装備していたら高い確率で今までと変わらない勤務ができると思うから。よく考えたら国際線って、いろんな人が利用するでしょ?マジでどんな新しい出会いが…いや、疑ってない。寿を信じてる。けど…。オレが安全運転できるように…お守りだと思って」
だんだん自信なく小さくなる声。
三井は、このバカフライト前にとんでもないサプライズぶっ込んできたなという気持ちより、驚きすぎて目を丸くしたままフリーズしていた。
何も言わず、仙道を見ている姿に、
「いや、あの。…相談ぜずに指輪作ってごめん。でも全然、高くないから。手作りの指輪って一万もしないから」
怒っていると勘違いして言い訳をした。
「はぁ?!お前が作ったのか?」
「うん」
「いつの間に」
「二週間前かな?荷物届いたでしょ」
「あー。部屋にこもってなんか作ってたな。新作の疑似餌じゃなくて指輪だったのか」
「うん」
「新しい出会いにオレがよろめく、だと?」
「寿を信じてない訳じゃないんだよ。でも…変な妄想に囚わ…かっこ悪いね、オレ。発端はそこなんだけど…お揃いの指輪欲しくなってポチっちゃった」
仙道はだんだん恥ずかしくなり箱を閉じようとした時、三井に箱ごと指輪を取り上げられてしまった。
「へー。本当に彰が作ったのか?」
「うん。寿が寝てる間に指のサイズ測ったりした」
三井は指輪を箱から取り出して左手の薬指につけた。
「ピッタリだ」
かざして見せる。
「よかった」
仙道はホッとした感じに言った。
三井が指輪をした手を差し伸べた。
仙道は嬉しそうに微笑んで手を取った。
三井が仙道の手を引いたその勢いで立ち上がると、ハグからのキス。
「ありがとう、彰」
「嬉しい、大好き」
「彰の分もあるなら…オレがつけてやろーか?」
「ホント?!ちょっと待ってて!部屋から持ってくる!」




(…浮かれ倒してたなぁ)
三井はニヤけた顔を引き締め、コンロに火をつけた。
今夜はトマト鍋のようだ。
かぼちゃのサラダは温かいまま食べられる。
ニンニクペーストと塩、オリーブオイル、バターを混ぜて塗ったバケットも後はオーブンで焼くだけ。
「ただいま」
仙道が厨房に来た。
「おかえり」
「手伝いに来たよ」
三井の横で仙道は手を洗った。
「煮立ったら食べられる。飲み物の準備してもらおうかな」
「オレは最近、ハイボールに目覚めたんだけど」
「オレは白ワインがいいなぁ
「わかった」
仙道はワインセラーに向かった。


三井はテーブルに卓上コンロを置くと、その上に鍋を置いた。
仙道がワインを持ってワインセラーから戻って来た。
「今日はトマト鍋だから〆がリゾットかパスタか選べるぞ」
三井は仙道に言った。
仙道は三井の顔を見るなり、
「C'est dur!ma précieuse femme a disparu!」
と、早口で叫びながらすっ飛んできた。
「なんだ?」
とりあえず手に持っていたワインをテーブルに置き、三井の前に跪いた。
三井の左手の薬指に指輪をはめた後、
「Il y avait une personne mignonne…Aimeriez-vous vous marier?」
と言って微笑み、仙道は三井を抱きしめた。
黒ずんでいた指輪はピカピカに輝いていて、
「Oui. mon étoile numéro un」
三井も微笑んで答えた。